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新型コロナウイルス感染症(2)-PCR検査の意味するもの-

更新日:2020/03/11

今回は新型コロナウイルスに感染しているかどうかを調べるPCR検査についてお話したいと思います。その前に検査の科学的な考え方を知っていないと大きな過ちを犯します。

一般によくある間違いは、検査の判定結果をそのままうのみにすることです。すなわち、陽性であれば「感染あり」、陰性であれば「感染なし」と受け取ることです。しかし、現実には100%完全な検査は存在しないため、ある程度のエラーが起こります。

検査結果には4つの可能性が存在します。

①真陽性:「感染している」で陽性判定
②偽陰性:「感染している」なのに陰性判定
③偽陽性:「感染していない」なのに陽性判定
④真陰性:「感染していない」で陰性判定

 

「感染している」

「感染していない」

陽性

判定

①真陽性

③偽陽性

(+)
陰性

判定

②偽陰性

④真陰性
(-)

 

①と④の場合は問題ありませんが、②と③の場合の判定はエラーです。陽性判定されても真陽性か偽陽性かの区別がつきません。陰性判定の場合も同様に、真陰性と偽陰性の区別がつかないのです。どんな検査にもこの限界は付きまといます。PCR検査も例外ではありません。

 

さて今回の新型コロナウイルス感染症で考えてみましょう。

武漢からチャーター便で帰国した日本人の方は全例PCR検査が行われており、陽性判定された(もちろんこの中にも偽陽性の方はいますが)人数から計算すると、武漢の日本人コミュニティーでは約1.5%の感染率でした。そこで日本国内の感染率を仮に2%として話を進めていきます。

1000人の集団を考えてみましょう。この中には20名(2%)の感染者がいます。残り980名(98%)は感染していない人です。

検査には感度と特異度という概念があります。感度とは「感染している」人の内で、正しく陽性(真陽性)と判定される確率です。ここではPCRでの新型コロナウイルス検査の感度を95%として話を進めていきます。

「感染している」20名の内、19名(95%)は正しく陽性と判定(真陽性)されますが、1名(5%)は陰性(偽陰性)と判定されてしまいます。

特異度とは逆で「感染していない」人の内で、正しく陰性(真陰性)と判定された確率です。

一般に特異度は感度より高いので、ここでは99%として計算します。

「感染なし」の980名のうち、陰性と判定される人(真陰性)は970名(99%)、残りの

10名(1%)は陽性(偽陽性)と誤って判定されてしまいます。

 

    「感染している」 「感染していない」  
陽性 判定 ①真陽性19名 ③偽陽性10名 29名
(+)
陰性 判定 ②偽陰性1名 ④真陰性970名 971名
(+)
    20名 980名 1000名

 

陽性と判定された29名の内、本当に「感染している」人は19名で、その割合は65.5%(19÷29)となります。すなわち、陽性と判定された場合、100%「感染している」のではなく、あくまでも「感染している」可能性が65.5%ということです。これを陽性適中率と呼びます。

同様に陰性判定の971名のうち真陰性970名の割合は99.9%(970÷971)、これは陰性適中率と呼ばれています。

陽性と判定された29名のうち10名(34.5%)は冤罪です。新型コロナウイルス感染症は2類感染症に指定されましたから、都道府県知事の判断で隔離のために入院措置を取られるかもしれません。飲食店の店員さんだったりしたら、風評被害でまずお店は経営困難に陥るでしょう。

 

 

1000人の集団の中に20人の感染者がいる時、全員に検査をした場合を考えましたが、次に今までに分かってきている臨床症状から「感染している」可能性が高い人を100人にまで絞り込んで検査をした場合を考えてみましょう。

    「感染している」 「感染していない」  
陽性 判定 ①真陽性19名 ③偽陽性1名 20名
(+)
陰性 判定 ②偽陰性1名 ④真陰性97名 80名
(-)
    20名 80名 100名

 

「感染している」20名は、臨床症状から絞り込んだ100名の中に入っていると仮定します。

感染者20名のうち19名は陽性(真陽性)と判定され、1名は陰性(偽陰性)と判定されるのは1000名の集団で考えたのと同じです。さて残り80名に特異度99%の検査をすると、79名は陰性(真陰性)と判定され、1名が(偽陽性)と判定されます。陽性適中率は95%(19÷20)にまで上がります。そして何より冤罪の人(③)が10人から1人に減ることになるのです。

 

今まで書いてきたのは純粋に検査の精度上のことですが、問題はそれだけではありません。検査件数を多くすると検査精度(感度、特異度)はどうしても落ちてきます。

もう一つ根本的な問題もあります。インフルエンザウイルスは上気道に感染しますが、新型コロナウイルスは下気道に感染します。したがってインフルエンザテストのように鼻咽頭ぬぐい液を検体にしたのではその中にウイルスが存在していない可能性が高くなります。本来は下気道由来検体(喀痰、気管吸引液)を採るべきなのですが、熱も咳もなく体がだるいだけのような軽症の人から採取するのは困難なので、鼻咽頭ぬぐい液を検体にしています。新型コロナウイルスをPCRで実際に検査している人よると、検体採取の不備も含めると感度は70%ほどではないかという事でした。

 

新型コロナウイルスが検体中に入っていないのにどうして陽性判定(偽陽性)が出るのだと疑問に思う方もあると思います。通常のコロナウイルスは自然界に広く分布しており、我々がひく風邪の15~20%はコロナウイルスによって引き起こされています。したがって鼻咽頭ぬぐい液の中に通常のコロナウイルスが紛れ込む可能性は多々あり、遺伝子配列の少しの違いを見誤れば陽性判定が出てしまうのです。検査は大勢の人にすれば良いというものではなく、「感染している」可能性の高い人に絞り込んでしっかりと精度管理をして行うべきもので、それが冤罪を減らし、風評被害を減らすことにも繋がります。

 

現在韓国ではドライブスルー方式と称して症状のほとんどない大勢の人に検査を実施していますが、これは公衆衛生学をまったく理解していない愚行です。陽性と判定された人が今どこにいるのかを地図上に表示し、100m以内に近づくと警報音が出るアプリまで出回り、100万ダウンロードされたそうです。甚大な風評被害が心配になります。

先日私の住む西宮市で初めて新型コロナウイルス感染者が出ました。保健所の方が大勢で防護服を着て消毒に訪れたらしく、その日の夜には知人からメールやって来て、私でもその方がどこの誰だか知っていました。我々は反面教師として今後の韓国を見守っていくべきでしょう。

ワイドショーの馬鹿なコメンテーターの中には「日本も韓国のようにもっとたくさんPCR検査をするべきだ。政府は新型コロナウイルスの感染拡大を隠蔽しようとしている。」と主張している人もいます。自分の不勉強、無知を衆人のもとに晒しているようなものです。検体をどのように採取しているのか、検査技師さんはそれをどのように処理してPCRの機械にセットするのか、その結果を誰がどのように判定するのかを実際に見て、話しを聞く、しっかりとした取材をしてからコメントしていただきたいものです。

テレビのワイドショーはテレビ局の報道部が制作するものではなく、いわゆるバラエティー番組枠だということを先日知りました。スポンサー獲得に繋がるなら、視聴率を上げるために国民を不安に堕とし入れることなど屁とも思わない集団だということなのでしょう。

マスコミ、ネットの情報をうのみにして右往左往踊らされる人間にはなりたくないものです。

 

松下 医院   松下 正幸

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